忘れたくないことごとを書きつける 息子に語るごと書きつける
ハリポタを原書で読みたいと願う子の英語の成績「中の下」あたり
ひとの世話ばかりしているような気が否めないこと夏の盛りに
宿舎からほんの束の間抜け出してアイちゃんに会う海を見に行く
導火線に火をつけろ火をつけろという声がそこらじゅうに反響してる
不恰好ながら美しい梅の木を見上げて鋏を入れんとす、す、す
ニキビなんかそのうち治ると取り合ってもらえなかった お母さんのばか
行っといで ニキビ外来に送り出す息子の肌は思春期の肌
一日をあいまいに過ごすなんて嫌 酷暑の夏はもう嫌なんだ
濁りたる湖に波立ちておりわれに死に水当つる人はいまい
五年ぶり発熱せる子を乗せてゆく小児科へゆく五年ぶりにゆく
思春期を支えてくれし歌うたう三人今や七十歳とう
ハイヒールもパンツスーツも手離してまだ新しきトゥシューズ捨つ
裏切りに遭ったときにはどうやって立ち直るのが正解ですか
絽の喪服纏いて数珠を握りしむ 嫌なこと嫌なこと言われたっけな
いつしかに写真撮らなくなりておりこの風景が当たり前になり
#######(ハッシュタグ)七つも付けて更新す主張したいこと何もないのに
思い出を整理するのに疲れたよ 誰かのために役立ちたいのに
ライム酒を漬ける手際もなかなかになりて田舎の四季見つめおり
激しくて熱い恋でもあっさりと終わりはくるの 夏空に華
ここにある確かなものが遠くなるカタチないものばかり追いかけ
どんなに言葉を尽くしても伝わらないチョコレート色のコスモス
本心を見透かされてる今週も絶妙な案出してくるSiri(シリ)
死んじゃったひとに恋して死んじゃったひとの書物を集めておりぬ
もう少しだけ待っていてごめんまだ叶えていない夢があるんだ
「こんにちは」と声かけられて「おかえり」と返す下校の小学生に
滑り込む快速列車に飛び乗って呼吸とともに怒り鎮める
この風に吹かれてどこまで行けるだろう明日に怯えて立ち尽くしても
秒針が短針に追いつき五秒後に長針に触れる九時五十分
置き去りにされたのかしら秋深く思い出だけを残して君は
ラフマニノフ交響的舞曲をかけて発熱の子と過ごす一日
はじめての高速道路この町に穏やかな道はなかなかなくて
いよいよもう覚悟を決めておくように言い渡されて立ち尽くしおり
「覚悟して」主治医の言葉反芻し長き廊下を足早に行く
大声でわめいてる人残しきて白鷺の舞う水路を渡る
田園に静寂ありて森林の賑わい遠くとおく聞こえる
毎日が無為に過ぎてく青空がやたら憐れみ深く澄んでて
暗闇に抱きとめられているようで唇噛んで過ごす夜な夜な
何だろう……壊れてゆくよ 過ちをすべて消し去ることで何かが
まじないをかけるみたいに部屋じゅうをぐるぐる歩きまわっておりぬ
この先を生きてゆく意味考える真紅の酒をグラスに注いで
これ以上闘えないよ勝利なんてしなくていいよここにいてくれ
星を観に行きませんかもしよかったら そのまま朝を迎えませんか
あなたとの恋を夢みて少しいい帽子とバッグを揃えておりぬ
夜を切り裂いて流れるヘビメタと椿の柄の大島紬
初夢を追いつづけてる十日過ぎあなたと始発列車に揺られ
電話ボックス行きつ戻りつしてた日々けっきょく架けずに帰ってた日々
懐炉ふる手のうち熱くなりにけり あなたの喋るリズムが好きで
宝くじ当たれば君と駆け落ちをしようか逃避行でもいいし
あなたとの秘密を三年持ち越して駅で落ち合う日を迎えたり
海を見に行きませんか嫌じゃなければ 夜通し語り明かしませんか
別々に暮らそうよって言えなくてあなたの帰り鬱々と待つ
新たなる畳のほころび見つけては溜息をつく冬の終わりに
「懸命に生き抜きました」「生涯を全うしました」嘘だ、嘘、うそ
君の住む街に電車を乗り継いできました君の部屋をめがけて
車線変更した刹那ラジオからロシア語流れスピードを上ぐ
懐かしさ憶えぬままに二時間の道頓堀(とんぼり)特集ついに終わりぬ
八枚の便箋用いて書き終えし母への手紙まだ足りなくて
春先にわかめをちぎる君の暮らし覗いてみたくて体感したくて
誰よりも不思議な恋をしたくって会いに来たのにすごく普通だ
ルービックキューブひと粒ずつそろう経費精算してるみたいに
秘密だから楽しいなんて君らしくないよ突然鎌倉なんて
どこからかビールケースを持ってきて腰掛けているどこかのおばさん
この夜に生まれた情熱あしたには死んでいるから引きずり出して
やさしさのかけらもなくてすみません大切なお嬢さんをうちの愚息が