短歌をはじめたばかりのころは(巧拙はひとまずおくとして)いくらでも57577のフレーズが出てきたものだ。しかし困ったことに今はぜんぜん出てこない。
「歌が詠めないときどうするか」という問題は歌人たちのあいだで根深いらしく、しばしば話題にされるようだ。私が最近編み出した方法を紹介する。とっておきの方法なのでぜひ真似されたい。
まず、ジャンルの異なる2冊の本や雑誌を手にする。この場合、2冊の分野やカラーが違えば違うほどよい。たとえば明治文学大系とティーンズファッション雑誌。たとえば政治系機関紙と料理本。たとえば歴史小説と家電の取扱説明書。たとえばゲーム攻略本とビジネス書。次に、選び取った2冊を左右の手に1冊ずつ持つ。
そして目を瞑り、左右それぞれの本をめくって適当なページの適当な箇所にそれぞれの人差し指を置く。そこで目を開け、左右の人差し指がさす語を使って歌を詠む、という具合だ。
とある日の私の例。左手には石持浅海のミステリ小説を、右手には月刊の経済誌をそれぞれ携え、目を瞑って適当に繰ったページにそれぞれの人差し指をトンッと置いて目を開けてみると、左手の人差し指は「容疑者」、右手の人差し指は「ビットコイン」の「コイン」を指し示していた。それで出来たのが、
容疑者が絞られてゆくプロローグ コインの裏を見てみるがよい
だった。まったく意味不明の歌である。私の歌を読んで「わけわからん」「なんじゃこりゃ」という感想を抱いたら、そんなわけであるから、評なんかせずに面白がってほしい。
(2024年)