Works
作品集

2025年の歌(月々更新中)

忘れたくないことごとを書きつける 息子に語るごと書きつける

ハリポタを原書で読みたいと願う子の英語の成績「中の下」あたり

ひとの世話ばかりしているような気が否めないこと夏の盛りに

宿舎からほんの束の間抜け出してアイちゃんに会う海を見に行く

導火線に火をつけろ火をつけろという声がそこらじゅうに反響してる

不恰好ながら美しい梅の木を見上げて鋏を入れんとす、す、す

ニキビなんかそのうち治ると取り合ってもらえなかった お母さんのばか

行っといで ニキビ外来に送り出す息子の肌は思春期の肌

一日をあいまいに過ごすなんて嫌 酷暑の夏はもう嫌なんだ

濁りたる湖に波立ちておりわれに死に水当つる人はいまい

五年ぶり発熱せる子を乗せてゆく小児科へゆく五年ぶりにゆく

思春期を支えてくれし歌うたう三人今や七十歳とう

ハイヒールもパンツスーツも手離してまだ新しきトゥシューズ捨つ

裏切りに遭ったときにはどうやって立ち直るのが正解ですか

絽の喪服纏いて数珠を握りしむ 嫌なこと嫌なこと言われたっけな

いつしかに写真撮らなくなりておりこの風景が当たり前になり

#######(ハッシュタグ)七つも付けて更新す主張したいこと何もないのに

思い出を整理するのに疲れたよ 誰かのために役立ちたいのに

ライム酒を漬ける手際もなかなかになりて田舎の四季見つめおり

激しくて熱い恋でもあっさりと終わりはくるの 夏空に華

ここにある確かなものが遠くなるカタチないものばかり追いかけ

どんなに言葉を尽くしても伝わらないチョコレート色のコスモス

本心を見透かされてる今週も絶妙な案出してくるSiri(シリ)

死んじゃったひとに恋して死んじゃったひとの書物を集めておりぬ

もう少しだけ待っていてごめんまだ叶えていない夢があるんだ

「こんにちは」と声かけられて「おかえり」と返す下校の小学生に

滑り込む快速列車に飛び乗って呼吸とともに怒り鎮める

この風に吹かれてどこまで行けるだろう明日に怯えて立ち尽くしても

秒針が短針に追いつき五秒後に長針に触れる九時五十分

置き去りにされたのかしら秋深く思い出だけを残して君は

ラフマニノフ交響的舞曲をかけて発熱の子と過ごす一日

はじめての高速道路この町に穏やかな道はなかなかなくて

いよいよもう覚悟を決めておくように言い渡されて立ち尽くしおり

「覚悟して」主治医の言葉反芻し長き廊下を足早に行く

大声でわめいてる人残しきて白鷺の舞う水路を渡る

田園に静寂ありて森林の賑わい遠くとおく聞こえる

毎日が無為に過ぎてく青空がやたら憐れみ深く澄んでて

暗闇に抱きとめられているようで唇噛んで過ごす夜な夜な

何だろう……壊れてゆくよ 過ちをすべて消し去ることで何かが

まじないをかけるみたいに部屋じゅうをぐるぐる歩きまわっておりぬ

この先を生きてゆく意味考える真紅の酒をグラスに注いで

これ以上闘えないよ勝利なんてしなくていいよここにいてくれ

星を観に行きませんかもしよかったら そのまま朝を迎えませんか

あなたとの恋を夢みて少しいい帽子とバッグを揃えておりぬ

夜を切り裂いて流れるヘビメタと椿の柄の大島紬

初夢を追いつづけてる十日過ぎあなたと始発列車に揺られ

電話ボックス行きつ戻りつしてた日々けっきょく架けずに帰ってた日々

懐炉ふる手のうち熱くなりにけり あなたの喋るリズムが好きで

宝くじ当たれば君と駆け落ちをしようか逃避行でもいいし

あなたとの秘密を三年持ち越して駅で落ち合う日を迎えたり

海を見に行きませんか嫌じゃなければ 夜通し語り明かしませんか

別々に暮らそうよって言えなくてあなたの帰り鬱々と待つ

新たなる畳のほころび見つけては溜息をつく冬の終わりに

「懸命に生き抜きました」「生涯を全うしました」嘘だ、嘘、うそ

君の住む街に電車を乗り継いできました君の部屋をめがけて

車線変更した刹那ラジオからロシア語流れスピードを上ぐ

懐かしさ憶えぬままに二時間の道頓堀(とんぼり)特集ついに終わりぬ

八枚の便箋用いて書き終えし母への手紙まだ足りなくて

春先にわかめをちぎる君の暮らし覗いてみたくて体感したくて

誰よりも不思議な恋をしたくって会いに来たのにすごく普通だ

ルービックキューブひと粒ずつそろう経費精算してるみたいに

秘密だから楽しいなんて君らしくないよ突然鎌倉なんて

どこからかビールケースを持ってきて腰掛けているどこかのおばさん

この夜に生まれた情熱あしたには死んでいるから引きずり出して

やさしさのかけらもなくてすみません大切なお嬢さんをうちの愚息が

昨晩は軽く出でたる丸き月 今宵重みを増しいずるかな

お互いの不安掻き消すためのキス渋谷の空に垂れこめる雲

氾濫が起きそうな胸抱きながら欲の正体探しておりぬ

弱っちいこころ誤魔化すための嘘きみの明日を見極めたくて

五円玉賽銭箱に投げ入れて残り人生預けておりぬ

待つというストレス日に日に増幅し私のからだを蝕んでゆく

同僚の引退告げる郵便の湿り気帯びて春暮れにけり

星の位置ずらしつつ夏来たるらし草の匂いの土を踏み締む

まぁまぁまぁよそよそしくて癪なこと しばらくぶりに見上げる夜は

あなたとの恋愛ごっこポケモンを画面に呼び出すごとく始まる

また今日も何もできずに終わってく他人のせいにしてばかりいて

夏のきざし此処にもありて汗臭きカッターシャツをざぶざぶ洗う

ヨットの帆どこまで行けど真白くて遠く遠くに白き点あり

一年に一度めぐってくる刹那 キミが生まれた ワタシが産んだ

降りそそぐ樹雨 深緑ふかぶかと気だるき道に迷いていたり

マスキングテープ貼り足すようにしてふたり暮らしはおずおず過ぎる

行かないで 背中で声が する だけど 振り返らない 歩幅変えない

少しすり切れた下着を身につけてあなたは昼の花をこぼすの

そもそもの出会いが間違いだった って 答え合わせをしてるんじゃない

慎重に半冷凍の玉葱を刻むときにも涙は出で来

究極の地味婚を経て堅実な夫婦になったつもりでいたよ