コスモスの咲き乱れいる公園に子の成績を案じていたり
君がすき君が飼ってる猫もすき柿の落ち葉を踏みしめて立つ
使えぬとなれば使いたくなるお金行ったこともなきエステやネイルに
樹々の枝冬に備えていたるらし遊歩道(プロムナード)のゆるき階段
警察の現場検証終わらずに止まったままの電車に眠る
追い込んでばかりの自己を労りて労りてまだ甘え足りなし
冬雲雀まだ落ち込んでいる彼に大阪弁を教えてあげて
妬むほどうるおい帯びて澄んでおり緞帳おりるまで君の目は
怖いのか人恋しいのかだるいのか思い出ばかり辿ってる日は
平和ってなんだろ愛ってなんだろう筑波の嶺を望みおりたり
肩のあたりに陽射しを受けて眠りおり遠く野球部の声がきこえる
まるでここは取調室帰りしなスーツの君に問い詰められて
嘘ついているのは私でもそれは君のためではないんだけどさ
わが夫のからだのなかを駆けめぐる見知らぬひとの血液拭う
お芝居とコントの違い明確にわける条件メモしておいて
ラジオすらなかった百年前思いスマートフォンの百年後愁う
両耳に栓をしてから部屋に入る脳内ICチップ作動す
サンタさん来なかったからプレゼント交換しようぜ、俺パソコンな。
空洞のお腹に手を当て眠りおりこのひとはまだまだ死なないよ
パン屋からクロワッサンを焼く気配して軽やかになる私たち
鶏の皮炙りつつ問う わが生はこんなに地味でよいのでしょうか
ニッポンが中央にある世界地図まるめて金星のぞきみており
浅く張る湯船にからだすべらせてパラオのガイドブックを広ぐ
メールせぬ日はなしラインせぬ日なし誰にも会わずにつながっており
ママあのさ 呼びかけくるるわれよりも大きな図体して朝な夕な
紅茶好きなら来てくださいと誘われて俄かに紅茶を極むる心地
サンドウィッチ勧めらるるまま手つけたり珈琲飲みたい気持ち抑えて
住むところ自分で探したことなくて満開の梅を窓辺に見上ぐ
折り返し地点広くて迷いおり復路途上にいるやも知れず
秒針の刻める音の正しさよ五臓六腑に沁みわたりゆけ
高校の附属中学生たちは高校生として扱われおり
幼少期より大人っぽいと言われきた息子にいまだ訪れぬ反抗期
思春期を過ぎてしまったかのごとく息子はマウスの電源を切る
これくらいの人も結構いますよと言われて埋もる十八歳に
ストレスを溜めこんでいるフリをしてもともと背負ってないかも知れぬ
免許取らむ免許取らむと騒ぎつつ六年が過ぎ七年の過ぐ
菜の花のみっしり咲ける土手をゆく自転車でゆく高らかにゆく
投げ入れた石が川面を飛び跳ねて水鳥たちはいっせいに去る
あのひととビールを飲もう満開のしだれ桜を家に見立てて
うまそうに泡を嘗めてる彼と居てやわらかな風の吹き抜ける家
人生をこのまま終わりにしてもいい 淡い空気のなかに眠りぬ
剥き出しの豆電球をぶら下げてポメラニアンは国道ゆけり
鶯のしきりに鳴きて目覚めたりカラスが屋根を歩く音のす
本日も郵便受けは空っぽで梅一輪の咲き残りおり
ドラクエの世界に暮らす子と入るフルーツパフェが売りの喫茶店
腐れ縁という言葉さえ甘やかに聞こゆる朝は猫に名つける
いっせいに紫蘭咲き初め時間差でわれと息子を驚かせたり
六枚のきもの長押に下がりおり仕舞わぬままに薄着になりて
じゃんけんのトーナメントに勝ち抜いて大きな熊を渡されており
唐突に別れのときはやってきて釣船の生む波を見ている
曇天にヨット浮かべてゆるやかに始まってゆくクラスマッチは
知る権利振りかざしつつプライバシー守る権利も振りかざしてる
淀みたる空気のなかで空気読む自信のなくて急行を待つ
友だちも知り合いさえもいないのにお泊まり会を企てている
このひとさえいなかったならどんなにかラクだったろう 君の頬を撫づ
常識を外れた理由 奇行くり返した理由 恋してたから
現実と理想のギャップを埋めてゆく作業にも似てミサンガを編む
思い出は燃えてしまうの私たちいなかでさびしく朽ち果てゆくの
感情と事件がねっとり絡みあう複雑な日々を過ごしておりぬ
たんぱく質十五グラムを摂取して一気に階段上る岐阜駅
このひとと付きあってますと言うためにがんばってた日を半生に刻む