画用紙の束をかかえて意気込んで熱帯魚売る店過ぐるなり
「だいじょうぶ?」たったひとつの問いかけに泣き出しそうで舳先を見つむ
ハーバーで交わした短いキスそれは始まりでもなく終わりでもなく
環境に負荷なき暮らしもとめつつ船のエンジンぎりりと入れぬ
ひとことで片付くような生じゃない 笑って死ぬためすべてを賭けむ
日が昇る 湖面のきらきら増えてゆく 猫でも連れてくればよかった
コバルトの絵の具を水に溶きながら呼吸と筆を操りており
霧が晴れたらサンダルに履き替えて珈琲のため湯を沸かそうか
君のことまだ思い出にはしたくない鳥影ちいさく飛びまわりおり
湖の上にも雨は落ち来たり朱色の浮き輪うずたかくあり
降りるまで投函できぬと知りながら父母に書く大きめの字で
揺れる水の上に眠りぬ舫いたる結び目ほどける感覚のなかに
空は空の色に明るみ湖(うみ)は湖(うみ)の色に深まりあかつき分かつ
航路なんてなくてよかった はじめから 自分で描く虹に向かいて
逡巡なく追い越しゆける三艇が遠のくまでを見送りており
競ってるわけでもなくて嘆いてるわけでもなくて無名の戦士
狙いさだめ絵筆の先でさそり座の心臓を突くためのウインク
よそ行きの自分は捨てて本当をさけべあらゆる鍵を放って
あるかなきか分からぬものに惑わさる水平線を画用紙にひく
膝に砂こびりつきたる日の盛りクジラに出くわすこともなければ
母の気がふれたと父より聞きしときしずかなる波わがうちに寄す
われのこと思い出してくれる人? ――真昼の夢は魔道に堕ちて
少しずつ日焼けの色を重ねおり白帆が夕陽に染まりゆくごと
われよりも十(とお)ほど若き母ばかり思い出さるる青きしぐさの
日焼けした肌にさらりとアロハシャツ羽織れば様になるのかしらん
サングラス外して薄き雲見上ぐいつしか終わりかけている夏
できるだけ薄く淡くと唱えつつ湖面の雲を写し取りおり
夕波がすべてを流してくれるとは思ってないよ『潮騒』を閉づ
守りたいひとがいるんだ守りたい星があるんだすべてを賭して
草むらにひっくり返してきたカヌー来週君といざ漕ぎ出さむ
Works
作品集