Works
作品集

連作「なつやすみ」

クインシーメロンを放射状八等に切りわけてゆく海の日の午後

船舶の免許取らんと航海図とりよせており夏の盛りに

それよりも運転免許が先でしょう  やさしき助言はわれに刺さりぬ

わがこころ先に折れたり 子にマシュマロテスト ロールシャッハテスト受けさせるとき

ぎんぎらりヒステリックな太陽に挑発されて水を打つ朝

あらかねの水撒きしあとの赤土に空間図形の見取り図を描く

「いろり見たい」「囲炉裏みせて」とあがりくる子らにカルピスふるまいており

「また冬にいらっしゃいな」と送り出す子らは「はあい」と帰ってゆけり

去年よりひとまわり大きな浮き輪つけわが子は遠く波へ向かいぬ

「痛恨のミステイクだよ俺ら」ってカヌーの上で七歳の言う

ママってほんとサングラス似合わないねー  円盤のごとき夕陽が湖面に沈む

複雑なジャグリングこなす家事・育児・親戚づきあい・PTAと

櫓くみたててゆく男衆そこに混じりて騒ぐ子らあり

悉く夏の暑さのせいにしてビールの栓を抜いてゆく君

甕覗色のプールに飛びこんで水質調査の説明を受く

提灯をこわごわ持ちて先頭をあゆむ最年少の息子は

灼熱の西日をうけて裏庭にいらがの幼虫じっとみており

水ばかり飲んでる夏に京やさい届けてくれるひとりの友あり

眠る子を起こさぬようにAIとわれはほどよく家事分担す

「夏はもう過ぎてしまった」と語りだす短編小説読みはじめたり

いつまでも冷蔵庫内によこたわる空芯菜のようなみずうみ

夕凪にカヌーをうかべ解いている四則演算中級編を