「短歌人」5月号「卓上噴水」コーナー掲載
広大な海のほとりの青空のもとでうまれた 生きるしかない
あこがれがカタチにならむ筍の灰汁とりながらひとり厨に
「この春はパステルブルーが流行りです」すすめられるまま着るカーディガン
車窓から見下ろす都市に傘の群れ熱くしずかにうごめいている
窓ガラスに映し出された光景のどこに自分はいるのだろうか
仕組まれしカラダをめぐる一丈の回路(ループ)は日々のリズムとなりて
誰ひとり花を見ようとしない日にわれ葉ざくらの繁みにあそぶ
通り過ぐ田嶋ハイツのベランダにちいさなちいさなこいのぼり見ゆ
ピクニックが似合う真昼間オフィスにて部下の日報たんねんに読む
朝早く蟻の大群わがへそを掘りはじめたるとこで目覚めぬ
日常を抜け出せぬまま牛乳のパックに鋏を入れている朝
雑踏におもうことなどありながら真鯉のそよぎを見上げていたり
諍いがいよいよ激しき場面にてこまかくうごく黒衣の頭巾
食べかけのつくねを串に刺したまま指揮棒のごと振りかざす友
弟よ、再婚なさい。喫茶店(パーラー)の鉢のめだかがかがやきを増す
夕焼けを背にうけ頬にうけながら近鉄野茂の活躍おもう
この世には金魚の餌を改良する職業もあり日は沈みゆく
ふくらはぎにまとわりつく雨キミ達はなぜドクダミと名づけられしか
「神亀」の一升瓶を空にして茄子田楽をひとくちに食む
大雨に打たれて光るアスファルト最終列車が踏切揺らす