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短歌講座メールサンプル

M.O.さんとのメール

M.O.さん

こんにちは、鑓水青子です。

このたびは、個別指導のメール講座をご受講くださり、ありがとうございます。
早々にご入金いただき、感謝申し上げます。

M.O.さんには、楽しみながら自信をつけていだきたいと思っています。
これから、どうぞよろしくお願いいたします。

短歌は、音数が「57577」ということが決まっています。そのほかには、何の決まりごともありません。短歌はただ、57577の形式にのっとっていればいいのです。季語も必要ありませんし、古典を知らなくても作れます。

けれども、ただ言葉を57577にあてはめただけでは、ひとに感動を与えたり共感を呼んだり、面白がってもらうことはできません。「音数」のほかに何も決まりごともないということは、作り手のセンスや品性、ときには人格までもが問われるのです。

ということをちょっとだけ意識しながら、はじめてみましょう。

まずは、何かキーワードを決めてから取りかかりましょうか。単語をひとつ決めるか、もしくは、どんな場面を歌にするか、決めましょう。ご趣味のことや日常生活に密着したものがよいでしょうか? お住まいの仙台の風景や、お気に入りのフレーズを詠みこむのもいいですね。

こういうことを短歌にしたい、というものがあれば、お知らせください。たくさんのなかから迷ったら、ぜひすべて教えてください。いっしょに絞り込んでいきましょう。

どんなアイデアが出てくるか、楽しみにしています!

鑓水青子

2021.MOsan

鑓水先生

どうぞ、宜しくお願い申し上げます。

過去十年近くかけて、本家のルーツを調査し、冊子に纏めました。一段落したので、その過程で思ったことをテーマとしました。それ以上の背景を、敢えて記入しないで送ります。必要なら、直ぐに背景などをメールします。

  大屋根も茅の厚さも露に帰す 庭成すツツジ草に紛れて

どうぞ宜しくお願い申し上げます。

M.O.

M.O.さん、こんにちは!

早速にありがとうございます。

本家のルーツとは、興味深いですね。驚きや納得など、さまざまな思いを抱いたことと思います。素敵な体験をなさいましたね。

さて。

  大屋根も茅の厚さも露に帰す 庭成すツツジ草に紛れて

とても完成度の高い歌ですね。このままでもよいように思いますが、細かい点をいくつか直してゆきましょうか。

といっても、ほとんど直すところがないのですが……困りました。

まず、手始めにリズムを整えてみましょうか。短歌は歌なので、一番にはやはりリズムを大切にしたいです。韻律ですね。

リズムがよいかどうかは、1首が出来上がったら、まず声に出して読んでみて、すんなり読めるかどうかで判断できます。だから、作り終えたとき、必ず声に出して読んでみてください。何度かつっかえてしまったなら、つっかえた部分の言葉のつながりを意識しながらリズムをととのえてみるとよいです。
(……これがまた難しいのですが、、、)

スムーズに読めたからといって必ずしもよい歌だとは限りませんが 、 たどたどしいよりはすんなり読みすすめられる歌のほうが好印象です。

とはいえ、このままでも悪くはないのですけれど(本当に困ったな・・・)。

【茅の暑さ】と【庭成す】の部分を、もう少し柔らかい表現に変えてみましょうか。【茅】は、【大屋根】に乗っているのですよね(茅葺の大屋根ということですよね?)。

【大屋根】と【茅】を並列にすると、少し読者の理解が遅れてしまいます。だから、そこを推敲してみましょうか。

【露に帰す】は、形がなくなった、という解釈でも構いませんか? 露と化してしまった、というか、【露】というひとところに落ち着いた、という。それだと読者は、大きな旧家が解体された様子を読み取ります。

それとも、露に濡れている、というくらいのニュアンスでしょうか? だとしたら、推敲の余地があります。

M.O.さんの詠んでくださった短歌は、とても風情があり、情景が豊かですね。ぜひとも、この雰囲気を保ったまま、推敲を重ねていけるとよいなあと思います。

今回はちょっと抽象的な課題となってしまいましたが、ひとまずチャレンジしてみてください。

考えるうえで迷うこと、質問等があれば、いつでもご相談ください。どんな案が出てくるか、楽しみにお待ちしています。

鑓水青子

2021.MOsan

鑓水先生

十年位住人居ない屋敷の、母屋が3年前に築180余年で解体しました。母屋は、間口9間、奥行6間でした。

真っ先にご指導頂いた、「感動、共感や、面白がってもらうこと。」「作り手のセンスや品性、人格までもが問われること。」を、常に意識していきたいと、頭では思っています。言葉に繋がらないのが実態でしょうが…。また、色々、本を見ると、弱い頭による理解では、「深さ、奥行、階層的、幽玄、・・・」などの言葉が出てきます。それが先生の言っていることと理解します。

茅の厚さ……茅の流れ(縦の)とも考えたが意味不明になりかねない。
庭成す……いい言葉が出ませんでした。
茅と大屋根を並列にすると理解が遅れる。二つを離すと、と言うことでしょうか。字数などから離れてしまいました。
露に帰す……化す、も考えたが直接的すぎると思いました。
少し考えてみます。

その間に、次の二つを教えてください。

一つ目
自分で書いたことですが、「草に紛れて」とは、文法的、意味的にはどのようになるのでしょうか。「紛れる」との違いを教えてください。

二つ目
上の句、「大屋根や茅の厚さも露に帰す」はとりあえずこのままで、「共感を呼ぶ」などを考え、無い頭で別の下の句を考えました。当初の下の句を「1、庭成すツツジ草に紛れて(考え中)」として、
2、「太い梁桁目に焼き付けし」 上の句に直接関連することを、列挙するような感じで、思いを込めました。
3、「草青々とツツジを覆う」 少し奥行、距離を置いたつもりです。どうしても物理的距離になってしまいましたが、母屋の解体をうけて、庭、屋敷にも情感?を、としてみました。
4、「川は今でも流れゆくかな」 階層を変え、より深く、情感?を別のことに例え、思いをこめました。母屋は解体したが、川は今でも流れ続けている、と繋いだつもりです。

当初の下の句を含め、敢えて、稚拙は承知の上ですが、どれがよりよい方向性にあるのでしょうか。また、目指すべきお手本、をお示しいただければ、幸いです。

宜しくお願いします。

M.O.

M.O.さん、こんにちは!

やはり解体なさったのですね。懐かしさや寂しさなどが入り混じったことでしょう。

M.O.さんは、非常に熱心に勉強なさっていますね。その姿勢、学ばせていただきます。

  大屋根も茅の厚さも露に帰す 庭成すツツジ草に紛れて

ご質問にお答えします。

> 一つ目

結句の【草に紛れて】は、「庭に群生して色どりを添えてくれているツツジも、他の雑草などに埋もれてしまって区別がつかないでいる」というふうに読めます。

【草に紛れて】は、「言い差し」のまま終わっていますね。あとに言葉を補うと、「草に紛れてしまっている」となるでしょうか。「紛れる」と終止形で結ぶよりも余韻が残りますし、やるせなさや切なさ、健気さやどうしようもなさ、などがそこはかとなく浮き彫りになり、感情にも訴えてきます。

> 二つ目

上の句【大屋根も茅の厚さも露に帰す】に続く下の句について

1、庭成すツツジ草に紛れて
2、太い梁桁目に焼き付けし
3、草青々とツツジを覆う
4、川は今でも流れゆくかな

いずれもよく工夫されていて、情感あふれるものばかりですが、とりわけ1や3がよいと思います。2は上の句と情景が同じ路線ですし、4は下の句を言いたいがために上の句を具体例に出した、という印象に陥ってしまうからです。2と4は、上の句の良さを生かし切れていない点で、もったいないと思います。

それにひきかえ、1や3ですと、ちょうどよいバランスで1首が成り立ちそうです。ツツジという植物はとても具体的で、色彩もあり、季節感も出ていて、はかなさと強さを併せ持った性質がじんわりと読者に伝わりますから、素敵なキーワードになりますね。

 1.大屋根も茅の厚さも露に帰す庭成すツツジ草に紛れて
 2.大屋根も茅の厚さも露に帰す草青々とツツジを覆う

なんだか、とてもよいですね。どちらも、このままで直す必要がないように思われてきます。でも、せっかくだから、いろいろと手を加えてみますか。

気になるほどでもないですが、少し漢字表記が多いでしょうか。短歌は、古い形式の歌なので、やわらかさも大切ですから、漢字が多くなると短歌らしさが減ってきます。たとえば、【草青々と】を、ほかの、ひらがな表記でしっくりくるような言葉に置き換えてみるとか、工夫してみてください。

ほかの部分でも、ちょっとした案でも、思いついたらお知らせください。ご一緒に練ってゆきましょう。

最後に、似た雰囲気を持った歌を、いくつかご紹介します。

  滅びゆく家を見守りいる柿と思いておりしが樹も老いており/三井修
  廃駅をくさあぢさゐの花占めてただ歳月はまぶしかりけり/小池光
  日の光ゆたかになりて霜解けの土むらさきに盛りあがりたり/伊藤保

ご参考まで。

それでは、次のメールも期待しています!

鑓水青子

2021.MOsan

鑓水先生

本当にいつもこんなに丁寧なご指導を頂けるのですね。ありがとうございます。

初心者があちこち手を出すと拡散してしまいます。取り掛かった下の句も良い方、とのことなので、しかも先回ご指導をいただいてから、ずーっと考えていることから、それを基本とします。ご指導に基づいて修正したつもりですが・・・。

  軒深き茅大屋根も露に帰す 連なるツツジ草に紛れて

軒は約1mでした。雨の日に、濡れないで母屋を一周出来ました。大屋根の軒なので、‘深い’とも思いましたが、敢えて、深き、過去形?で軽く区切ったつもりです。どうなのでしょうか。

庭には幾つものツツジが隣り合い、一部重なる様相に伯父が手入れをしていたことを思い出し、山が連なるが如く、と大げさに考えましたが、せめて複数のツツジが隣り合っている位の意味を込められるのでは、と直しました。

お示しいただいた、秀作は、おり、けり、たり、とあります。「草覆いたり」の方が、よいのかなあ・・・。分かりません。現在もそのようになっているとは思いますが、見に行った時はこうだった、との過去形のつもりです。

どうぞ、よろしくお願いいたします。

M.O.

M.O.さん、こんにちは!

いつも素早いですね。

  軒深き茅大屋根も露に帰す 連なるツツジ草に紛れて

とてもよいと思います。細かな点を少しだけ整えれば完成となりそうです。

深さ1mもの軒は、本当に見事だったでしょうね。合理性も兼ね備えていて、風土にも合っていたことでしょう。現代の建築では、なかなかできないかもしれませんね。

「深き」は、別に過去とは限りません。古語の連体形としても使えますので、「軒深き屋根」で「軒の深い屋根」と解釈できます。だから、これでよいでしょう。終止形の過去にせず、連体形として修飾させる意味で使うとよいと思います。違和感なく、すっと読み通せますから。

「連なる」はよいですね。群生しているほど多くなく、品よく並んでいる感じが出ています。

「おり」「けり」「たり」は、偶然そういった歌が例に挙がっただけです。収まりがつきやすいのでよく使われますが、M.O.さんのこの歌の場合は、無理に使わずに、このままでよいです。この歌は、素直な情景と、すっきりした風情が特徴ですので。

では、推敲してゆきましょう。

初句に【軒深き】とあるので、あえて【大屋根】と言わなくてもよいかと思います。軒が深いということは、屋根が大きいのだな、と推測できますから。読者には、ある程度、読みの幅を持たせてあげるほうが、よいのです。

だから、上の句は【軒深き茅葺き屋根も露に帰す】としてはいかがでしょうか。「茅葺き」という言葉の響きは、とてもレトロで、雰囲気があります。読者の脳裏にも、日本の原風景が思い描けますから。

それから、この歌の場合、上の句と下の句のあいだに空白は要らないかな。ひといきに読ませたほうが情緒がありますね。

  軒深き茅葺き屋根も露に帰す連なるツツジ草に紛れて

空白を削ると、ちょっと漢字が目立ちますか。漢字が多いことは悪いことではありませんが、黒黒として見えることと、短歌というよりも漢文のような印象を与えること、が特徴です。短歌らしさはあまりないけれど、あえてそこを狙うならそれもアリですし、うまくハマればかっこいい1首になります。

ただ、そうは言ってもやはり短歌は日本の歌なので、ひらがなを多用してやわらかさを出したほうがしっくりしますし、そのほうが和歌的なリズムにも合います。

なので、もし漢字や漢語に対するこだわりがないのなら、すこし漢字を減らしてひらがなを多くするとよいかな、と思います。

【軒深き】→軒ふかき
【連なる】→つらなる(もしくは【紛れて】→まぎれて)

2点を直してみますね。

  軒ふかき茅葺き屋根も露に帰すつらなるツツジ草に紛れて
  軒ふかき茅葺き屋根も露に帰す連なるツツジ草にまぎれて

いかがでしょうか? たったの1点、【軒深き】を「軒ふかき」に変えるだけでも雰囲気が出ます。

  軒ふかき茅葺き屋根も露に帰す連なるツツジ草に紛れて

それから、【ツツジ】をカタカナ表記になさったのは、お手柄です。学校の理科教育では植物名はカタカナで統一されているようですが、私たちが日常で使うときは、「躑躅」「つつじ」「ツツジ」と、漢字・ひらがな・カタカナいずれも使えますね。短歌に用いるときは、どの表記を使うかで、雰囲気や情景が変わってきます。

今回のM.O.さんの歌の場合は、カタカナで正解だと思います。たった一語のカタカナは、1首を読むとき、ぱっと目に飛び込んでくるので、ツツジの存在がくっきりと引き立つのです。この歌は、ツツジ以外の景色は茶色かモノトーンか落ち着いたものばかりなので、ツツジの色彩が際立っていますね。とてもよいと思います。

もう、完成しそうですね。

鑓水青子

2021.MOsan

鑓水先生

残り時間が・・・。
大変勉強になります。ここにも問題があり、留まらない、生かせない・・・。ツツジは、前のひらがなと区別することを思っただけでした。確かに、平仮名が重要なことも知りました。折角なので、三ヵ所全部平仮名にしたら、「・・帰すつらなる・・」が、「す」と「つ」が、繋がってしまうと思えて、ここは漢字と思いました。

1、軒ふかき茅葺き屋根も露に帰す連なるツツジ草にまぎれて
2、軒ふかき茅葺き屋根も露に帰す つらなるツツジ草にまぎれて

読売新聞では、空欄を設けず、一気に記載されています。気が付きませんでした。そう考えると、1の方がよいように考えますが、どうでしょうか。

先走りますが、二つ目もご指導いただけますでしょうか。
宜しくお願いします。

M.O.

M.O.さん、こんにちは!

いつも素早いですね。M.O.さんの熱心な姿勢には、心を打たれます。

そうですね。

1、軒ふかき茅葺き屋根も露に帰す連なるツツジ草にまぎれて
2、軒ふかき茅葺き屋根も露に帰す つらなるツツジ草にまぎれて

1のほうがよいですね。1のほうで完成としましょう。

  軒ふかき茅葺き屋根も露に帰す連なるツツジ草にまぎれて / M.O.

とてもよい歌になりましたね。おめでとうございます。

2のほうの、【帰すつらなる】で、ひらがなが続いて読みにくくなるのではないかとのことですが、この場合は、ご心配には及びません。

なぜかというと、短歌のリズムは「57577」で、「575ー77」という韻律に従って歌うからです。

【軒ふかき茅葺き屋根も露に帰すつらなるツツジ草にまぎれて】と表記されていても、「軒ふかき,茅葺き屋根も,露に帰す、つらなるツツジ,草にまぎれて」というふうに無意識のうちに息継ぎをしながら読むのです。

だから、句の区切りの間であれば、ひらがなが続いていても気になりません。散文だと気になるかもしれませんが、短歌はやはり詠唱するものですから。平安のころはすべてをひらがなで書くこともめずらしくありませんでした。

追伸:
メールは、いつでも構いません。思い立った時にしていただければ嬉しく思います(私からのメールは、M.O.さんほどのスピードではないですが……)。

そして、2回目もご受講くださるとのこと、本当にありがとうございます。

――(中略)――

次回も楽しみにいたしております。どうぞよろしくお願いいたします。

鑓水青子

2021.MOsan

鑓水先生

ご指導ありがとうございました。平仮名の件、確かに全部平仮名もありますね。また勉強になりました。もはや背伸びはしません。満足しています。改めて丁寧な解説などに御礼申し上げます。

M.O.