Essay
エッセイ

406号室

「ここ、どうしてサンカクなの?」と、ミチオくんが言った。
「ほんと、ここ、どうしてサンカクなんでしょうね?」と、私が答えた。

「ここ」とは、わが部屋の東に位置するベランダのことで、どうしてベランダが三角形なのだ、と部屋をみまわしながら疑問に感じているのである。

「ここ、まっすぐにしたらいいのにね」と、ミチオくんが言った。
「ほんと、ここ、まっすぐにしたらよかったのにね」と、私が答えた。

ミチオくんは、夫の弟。この春、長女が茨城の高校から東京の大学に進学することになり、ちょうど東京を離れる私と息子が、それならぜひ(この部屋を使ってくださいな)、と申し出たのである。そしてきょう、娘の暮らす部屋はいったいどんなふうなのかと下見にきているのだ。

ミ「そしたら、もっと部屋が広くとれるし、クローゼットだって広がる」
私「ほんと、もっと部屋もクローゼットも広がるのにね」
ミ「それに、まっすぐにしたほうがシカクになって部屋そのものも使いやすい」
私「ほんと。私もずっとそう思いながら暮らしてきたのよ。シカクだったらねぇ……」

「今の暮らしで不便に思うところや、もっとこうしたいという要望をどんどんリストアップしましょう。」リフォームの本や家づくりの本には、必ずといってよいほどそう書かれている。「片付かない、そうじがしにくい、という場合、ほとんどが家のつくりに問題のあることが多いのです」と。

それで私、不便なことに目が向きがちだったのね。もっと、ほら、ここはこんなに使いやすくて気に入っているわ、とか、このスペースはほっと気持ちが安らぐところなの、という部分にも注目してみよう。

狭い空間だけれど、どこにいても子どものようすが目に入るところは安心できていいわ(なんて言いながら、この子がハイハイで歩きまわっていた生後9カ月のころ、うっかり床に置いた漂白剤を食べて真っ白いうんちを出したときは大あわてしたっけ)。キッチンに洗濯機を置くスタイルは欧米みたいでかっこいいわね。キッチンのシンクがまるいのも気に入っているところよ。

春からこの部屋の住人になる姪がバスルームを覗いて叫ぶ。
「わあ! お風呂とトイレが別々だ! やった!」

(2017年)