Essay
エッセイ

4階で

 
4階にある私の部屋から、電車の行き来するのがみえる。何本ものJR線といくつかの私鉄、地下鉄が乗り入れているターミナル駅の駅前だ。ナニガシ鉄道のホームで電車を乗り降りするひとの姿だってよくみえる。終電間際など、じっと観察していると面白い。

酔っているのだろうとおぼしきオジサンや若いカップル、告別式帰りの婦人、試合のあとの打ち上げを終えて解散する学生のグループ、などなど。物語になりそうなシーンを幾度もみている。私に小説を書く才能があれば、ネタには困らないだろうに……。環境の持ちぐされである。面白いんだよねぇ、本当に。みていて飽きないもの。

それはさておき、そんな環境だから、駅でのアナウンスと列車の発車チャイムは私の部屋まで鮮鋭に聞こえてくる。車掌や駅員がマイクで乗客を諭す声など、非常によく聞こえる。

「扉が閉まりまーす、ご注意くださーい」
「発車ベル鳴り終わっておりまーす!」
「これからのご乗車はおやめくださーい」
「階段付近はたいへん混み合います、左右の扉に分かれてご乗車くださーい!」
「携帯電話をみながらのご乗車はおやめくださーい!」
「駆け込み乗車はたいへん危険です、次の列車をご利用くださーい!」
「次の列車、ひとつ手前の駅を発車しておりまーす、次をご利用くださーい!」
「もう乗らないでくださーい!」
「扉が閉まります!」
「扉閉めます!」
「閉めます!!」
「閉まっています!!!」

こんな調子だから、時計をみて時間を確認しなくても、電車の通る間隔や駅のアナウンスのようすでだいたいの時間がわかるのである。朝、目覚めたとき、「まだ4時半か」「6時は過ぎたな」などと感じるのだ。この感覚はほぼ正確で、目算(耳算?)が狂うことは滅多にない。唯一、この目算・耳算を活用する場がないことだけが、残念でならない。

(2015年)