Works
作品集

連作「真冬ロシア」

第17回髙瀬賞受賞

2018年 年明け
 
港から出られぬ船の多からむ真冬ロシアの海は凍れる
 
 
2006年 冬
 
ゴルバチョフをののしる会話とぎれなくシベリア鉄道の車内にききたり
 
隣席のふとったおばさんに早口で売りつけられし鮭の缶詰
 
線路敷く日本兵らの写真見きハバロフスクの博物館に
 
エレーナもイリヤもオリガもアリョーシャもレーニン復活説を信じき
 
  
2017年 春
  
アエロフロート機内にて機関紙を読む
「ПРΑΒΔΑ(プラウダ)」に米ドル市場縮小のプーチニズムを守らんとあり
 
ひと昔前に暮らしし街をみむ首都モスクワに降り立ちて今
 
キリル文字のつらなり俄かになつかしく手袋はめたこぶしを握る
 
この国に愛されたいと書店にて詩集一冊もとめていたり
 
ネムツォフが暗殺されし橋の上に今なお花を置きゆく人ら
 
極東発展省の本部はクレムリンにないという 五月の雪はあゆみ鈍らす
 
捕虜となりし軍人の写真渡されぬ管理局長の妻なるひとに
 
地下ふかくエスカレーターはつづきいて永遠に抱けぬ赤子のごとし
 
今ごろはびわの実もいでいるだろう モスクワハ雪、アサッテカエル。
 
この雪が融けきるころは白夜ならむ水たばこ呑む男らしずか