切り口をぼかしたように浮かびいる午前七時のしろき月みゆ
ひとひらの葉っぱ落ちくる ヒーローに変身したる子汗ばんでおり
閉ざされし東西門の向こうには暗証錠の嵌る正門
保護者からの要望ますます膨らみてセキュリティばかり基準となりぬ
男児らが集えば仮面ライダーがさんにんよにんごにんろくにん
総務部のメイルボックスにあふれいる書類の隙に押し込む訃報
完璧な謝罪をすませバスタブに湯を満たすため帰りゆくなり
酒はおんな 夜な夜なひとり酒をのむ女友だちと語らうごとくに
四十になれば葉巻をおぼえむと二十二のわれあこがれおりき
壇上の卒園生らほんとうにわが子は来年ここに立つらむか
蝶追いて鴉を追いて猫追いて道を逸れたり二年前には
くちじゅうを黒で埋めつつ「ひいきってひじきににてる?」と息子は問えり
駅前のほそく伸びたる街灯に郵便バイクあかき身を寄す
長引ける営業会議はジョイントをはめるのみにて終わりたりけり
財閥を築きし男の書を読みつつ小田急線にゆられ帰りぬ