Works
作品集

2014年の歌

だんだんに死なないことが難しく死なないことを年始に掲ぐ

白きこと黒きことなど何でもなし一キロの豚肉が鍋で煮えいつ

七竈そのあかき実とわがこころ不変であれと鏡をしまう

血の味のする東京の生水を今朝もコップになみなみと注ぐ

ねこちゃんがいたよと告げに来る子らに飴を持たせてかえす春の午後

舞い散れる雪を愛しむような夜みな鎮もりてきみは生まれぬ

天秤に分銅を置くように抱くようやくここに産みし我が子を

わたくしが潤一さんの長男を産みましたぞと先祖に告げむ

乳房より離れて寝息をたてる子のやわらかき髪を撫でておりたり

釣竿に疑似餌つけたるひとはまた我が子に幹(みき)と名づけたるひと

成果なき会議を終えて子に会いにみつばちぐみへ向かわんとする

つよく子を叱る街路に陽は落ちてかぼそくしなる柳のみどり

四〇℃の熱にくるしみ眠る子を銀河のごとく胸に抱きつ

皿洗い終わりし今は終電が行ってしまったあとのしずけさ

われのことを「かあちゃん」と呼ぶひとのいる不思議を思いて空はしらみぬ

梅雨明けてレモネードなどつくりおり子のためながら我ばかり飲む

「ママがすき」ふいに耳打ちされながら西陽に灼かれている夏休み

炎熱の砂に埋もれるビール缶、プリンの型を掘りおこす子ら

からっぽの伊藤園のお茶の自販機が荷台に積まれ運ばれてゆく

いちにちを眠れるのみに過ごしたし桔梗のあおもいよいよ濃きに

せわしなく動きいるとき「みてみて」とたいくつな子がわれを呼びに来

わるものはあっちへいけと剣突きて空(くう)を相手に飛びかかりたり

ガラケーと呼ばるる機器をわが持てり ガラパゴスとは怪獣の名ぞ

本来の役目終えたるベビーチェアに枕をふたつのせて陽に干す

子の投げしパズル嵌めおりヒーローの鼻とマントのピースと足りず

苛立ちをおさめるように手を拭いワイングラスを磨きやる朝

本棚に絵本があふれ色あふれ子の居ない夜をいかに過ごさん

「運動会までには元気になるように」連絡帳に保育士の文字

うすくうすく淹れた麦茶を水筒に注いで持たせるわれのよろこび

日報を受け取るときの素直さで朝髭を剃る夫(つま)をみており

前掛けよりハサミを抜いてカリスマはこの店のことサロンと呼べり

会議室に会議するひと集まれりひとは誰しも母より生まれ

地図にないとこまでいこうと君がいう参宮橋でバスを待ちつつ

看板に「美人半額ブス無料」  秋の薄雲淡くちぎれて

もぎとって投げてみたいと君の云うわれの頭をじっとみつめて

描いてた夢をあきらめゆく人が千秋楽の弓取り式する