ばあさんが九十七で死んでからずっと空き家になってる駄菓子屋
まちがえた字をあらためる気も起きずぼんやり馬酔木を眺めおりたり
春雨に眠りは浅くかすかなる雨音しだいに勢いの増す
おだやかにゆるやかになれしとやかにやわらかになれ眠れる森へ
珈琲豆ひきたてて待つキッチンに黒褐色の空気芳し
若夏をウェディングドレスのひと歩むカメラのひとに誘(いざな)われつつ
夏楓さまようわれに涼しさを運びくれたりつと立ち止まる
星座早見くるくるまわしながら子は「あっ!」とか「おっ!」とかときどき発す
あのころは剥き出しのまま生きてたと誇れるくらいの青春だったなら
日が暮れて当たり前だが夜がくるまっくらやみの夜がくるのだ
店先にカーネーションの花束とアレンジメントの籠はならびて
砂時計の砂落ちるまでが人生かビーズ細工のサンダル新調(おろ)す
廃屋が三軒ならび駄菓子屋の自販機だけが今を生きてる