Works
作品集

連作「薔薇細工」

第14回髙瀬賞候補

採光と明るさは別の問題と幾度も説けり地下スタジオに

一輪のバラを真っ赤にみせるため濃き墨を擦り黒く塗りたり

首に提げしヘッドホンから監督の指示漏れておりのど飴を噛む

ポケットにまるめた台本差し「三秒、二、一、スタート」と後輩の声

クレーンにのせたカメラは細工した薔薇を映さぬままに終わりぬ

抜き打ちで経営戦略を練るという試験のありてフロアしずまる

アイデアは高く買うよと肩に触れ企画部長は行ってしまえり

信号を待つあいだにも風はゆくただよう雲にかたちを与え

マイワシに煮汁をかけて火をとめる生きることとは穢れゆくこと

残業をいかに減らすか討議する会議は十九時半にはじまる

スタジオに小型録音機持ち込めば〈大雪のおそれ〉とテロップ流る

寒鰤を箸にはさみて聞く君の企画をとおす術のあれこれ

南天にうっすら雪が積もりいて暗がりのなか歩いてゆけり

煮込まむと買いこしモツは三日過ぎ冷凍室に入れられにけり

叱られることもなくなり朝焼けに靴ひも締めて霜ばしら踏む